フラット・マンドリンの教則本
マンドリンの練習をはじめました。
「フラット・マンドリン」といって、アメリカで発達した、背中が平たいやつ。ブルーグラスはじめ、カントリー系の音楽でよくつかわれる楽器です。
日本では学校によく「ギターマンドリン部」があって、そこで使われるマンドリンはボウルバック・マンドリンとか、クラシック・マンドリンと呼ばれる、背中の丸く膨らんだやつです。大正時代に日本で流行ったのはこっちです。萩原朔太郎とか。
学校にクラブがあるくらいであるからして、クラシックなやつは、日本語の教本も色々あるんです。ですがフラットなやつは、アメリカではデフォルトみたいだけど、日本ではマイナーですね。というわけで、教則本を探してみました。
マンドリン・プレーヤーのmaedolinさんのページ http://maedolin.web.fc2.com/lesson.html を参考にしたら、この2点が推しのようです。
1. Andy Statman 「Teach Yourself Bluegrass Mandolin」
2. ジャック・タトル「ブルーグラス・マンドリン」
これらを詳細に紹介してみます。他のものぞいてはみましたが、この辺が入門かつ長く使えそうです。
①Andy Statman “Teach Yourself Bluegrass Mandolin”
CDつき。英語版。なか見検索をしたところ、五線譜なしでタブだけの譜面なのと、そのタブがまた「外国」な感じで、買うかどうか非常に躊躇したのですが、端的にいうと著者がアンディ・スタットマンなので「買い」です。
アンディ・スタットマンはカントリー・クッキングのメンバー。同バンドのアルバムでマンドリンの他にサックスを担当。ブルーグラスにサックスというのも突飛ですが、ブルーグラス系の活動とは別に、自らのユダヤルーツを非常にアピールしていて、ラビさながらにあごひげをのばし、丸い帽子をかぶって、クレズマーのバンドもやっている(担当楽器はクラリネット)。
もう、ここまでの経歴で既に「そんな(変わった)人が書いた教本なら買いだろ!」って感じですね。初期のマンドリンのソロアルバムが未CD化だったり配信のみの販売しかないのが残念ですが、YouTubeで様子はわかります。この人の音楽の想像力はすごい。
- Flatbush Waltz [1980] – Andy Statman
- Nashville Mornings New York Nights [1986] – Andy Statman (これ、大好き)
この教本のいいところは、よく使うキー(AやD)からはじまって、順に難しいキーや奏法をおさめているところです。そして、わりと薄い。あまり大部なものは見ただけでハードル高そうなので。説明は簡潔ですが、よく読むと結構いいことが書いてある(手が疲れたらやめろとか、Gのコードは難しいけど慣れたら大丈夫とか)。タブ譜は1段目が標準メロディー、2段目がインプロビゼーションで、元メロを発展させる参考になります。付録CDにもそれらが収録されています。
難点は五線譜がないことと、タブ譜が独特なところ。普通だったら4本の線が引いてあって線の上に番号が書いてあるはずですが、これは5本線が引いてあって、線と線の間が各弦を表しています。これにも、番号がみやすいという利点はある(線の上に乗ってると読みにくいことがある)。五線譜はある方が、タブ譜だけより音楽がぱっと把握しやすいと、ぼくは思います。
でも欠点を凌駕して価値のある本だと思います。何より、CDがすごくいい。どうも初版(1978年)には音源がついてなかったらしくて、CDは後からついたみたいです。マンドリンはスタットマンではないけど、バンジョーはトリシュカ。トリシュカの伴奏で練習ができる!と思えばそれだけでもうれしくないでしょうか。模範演奏とカラオケの両方が入っていて、CDにあわせてタブ譜の通り弾いても楽しいし、自分のアドリブができたらもっと楽しい。
楽器が本当にはじめてという人には、この本は厳しそうですが、ギターは弾ける…という人には、おすすめします。
②Jack Tottle “Bluegrass Mandolin”
上述のリンク「ブルーグラス・マンドリン」(日本語訳)はプレミアがついてて「げっ」となったんですが、原著は冊子版もKindle版も売られています。それがこの本。
日本語版の表紙ではピンとこなかったけど、こっちの表紙をみて思い出しました。大昔に1か月ほどフラット・マンドリンとこの教本を借りて弾いてみたことがあるんです。maedolinさんもこの教本で練習したとのことだし、上記のスタットマンの本でも「次はこれがよい」とすすめています。
海外サイトによるとすごくファンが多い教本らしい:
Jack Tottle-“Bluegrass Mandolin”
http://www.mandolincafe.com/forum/showthread.php?48473-Jack-Tottle-quot-Bluegrass-Mandolin-quot
自分が入手したものには音源はついてませんが、1975年に発売された初版はソノシートつきだったらしくて、MP3にしたファイル(ピッチ修正したものまで)をアップしているサイトがありました:
Jack Tottle Audio Files
http://www.braccio.me/tottle.html
と、これだけ熱心な人がいるのを見たら、ほしくなりますよね。
内容は、基本事項の解説、フィドルチューンいくつか、歌ものいくつか、そして特殊奏法と名マンドリニストの譜例研究という非常に大部な構成。とても盛りだくさんです。スタットマンの本と対照的に、文章の説明が結構あって、読むのは大変ですが、いいことが書いてあります(自分を超えることはできないとか)。全曲ではないけど基本メロディの他に発展系も書いてあって、またエンディングの弾き方が書いてある。これ、貴重。
キーの難しさとかはあまり考慮してくれてない感じなのと、基本的にホームポジションで弾けるようにアレンジしてあるスタットマン著とは違って、ポジション移動がわりと早くから出てくること、初心者むきではないなあという指づかいが指定されてることなんかが、欠点かと思います。
しかしこれは、演奏家が自分のやり方を解説してくれてるとも言えるわけで、非常にありがたい話ですね。実際、著者のソロアルバムを聴いたら同じアレンジが出てきてました。
バイブル的な教本だと思います。
③その他の教則本
Amazonで「本」カテゴリーを「mandolin」で検索したら、フラットマンドリン向けの洋書がすごくいっぱいヒットします。
カタカナの「マンドリン」で検索したらクラシックのがいっぱい出てきますが、最初に出てくるのが、みたところ唯一現存する日本語のフラット・マンドリンの本、高橋純「いちばんやさしい フラットマンドリンレッスン キミのはじめての音をつくる本」です。(他に70年代ロックギタリストの洪栄龍による「フラット・マンドリン教本」というのもあった!が、絶版)
この本は、そもそも楽器をさわるのがはじめてという人にも薦められます。何より日本語なんで、安心です。ギターが弾ける人は、飛ばして上記の洋書から入ってもいいかなあと。
あと、私家版でこんなのがあったので、リンクだけしておきます。
ビレッジ教室 ブルーグラス・マンドリン・テキスト
http://www.scn-net.ne.jp/~nsynbg/shop-m-tx.html
最後に再び英語の本。
Mel Bay’s Deluxe Bluegrass Mandolin Method (Ray Valla)
これはあんましよくないなと思いました。五線譜+タブ(5線の)。Aパート・Bパートのリピート記号が書いてないのはなぜだろうとか、基本メロディだけの譜面だけどあまりスタンダードな感じのメロディじゃないとか、いきなり複弦奏法がでてきたりとか。
というわけで結論:スタットマンのはコンパクトでよい。トトルのはコンプリートな感じ。どちらもいいです。ここから先はビデオ教材(これがまたスタープレーヤーのがたくさんある)を探すとか、セッションに参加して武者修行とか、になりそうです。
<おまけ>
Amsco から出ている “Teach Yourself Bluegrass XX”のシリーズは、マンドリン編が上記のスタットマン、ギター編がラス・バレンバーグ、バンジョー編がトニー・トリシュカと、フィドル以外はカントリー・クッキングのメンバーが執筆しています。バレンバーグの教本も読んでみましたが、スタットマン同様、特にプログレッシブな感じではないところが意外でした。