甘い薬を口に含んで__

それは私の心に小さな悪魔が住みついて、禁断に手を伸ばし高い
ヒールで背伸びした、はやくオトナになりたかった頃のこと・・・。

時代の流れや男と女の暗部を、独特な温度と手触りで語り詠った、
ラビ2枚目のアルバム『ひらひら』に出会った。

頽廃、矛盾、欲望、哀隣、悪徳・・・物事の裏側にある臭気を
そのままに、隠された部分を唄うあぶなさと、一見、そんなこと
とは無縁と思えるくらい美しい彼女に、私はとても惹かれ、憧れた。

そうして、いいあんばいに湿っぽく、密やかな香りにつつまれて、
オトナになりきれない時代を、ずっと彼女の唄とともに過ごしたのだ。

アコースティックギターと、囁くような、語るような、滲むような
唄声。一転、オケに負けない驟雨のように思い切りよく響く唄声。
その後に続くアルバムではスタイルこそ違え、彼女の持つ魅力が
オパールの如く妖しい光となって届けられた。

可愛い女の詩なのに、なぜか艶めかしく。
甘美なのに、どこかさらさらと悲しく。
匂い立つほど「おんな」なのに、すっきりと潔い。

まるでドイツモーゼルの白ワインみたいな飲み口。
それが、彼女が私のグラスに満たした「甘い薬」だった。


それから永い時が経ち、禁断が禁断でなくなっても、彼女の唄は
秘められた魔術。闇の中、ターンテーブルのパイロットランプだけ
を点し、精神世界へ浮遊する。

昔、オトコがいつも耳元で呪文のように唱えた言葉と、
甘い薬を口に含んで。

99.4.12 投稿
かのん canon@dolce-web.com
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