96.8.22 96.8.22 震災犠牲者追善供養盆踊

「震災犠牲者追善供養盆踊」という看板を掲げ紅白の幕をはった舞台。神戸市長田区、震災で家がまばらになってしまった地域の空き地で行われた。この空き地のすぐ山側はぼくの生家のあったところだ。

少し背景を説明すると、このあたりでは地蔵盆が非常に盛大に行われる。人々は盆(8月15日の)にではなくこの地蔵盆(8月23日頃)に帰省する。

地蔵盆の1日目は近所の人々が地蔵にお供えをし、地蔵の持ち主一家が地蔵を飾り準備する日。2日目は夕方6時半頃、そろそろ日が短くなってきたこの時期の逢魔が時に、地蔵に供えられたお菓子類を子供達に配り始めることからスタートする。子供達は地蔵に供えるための線香と、もらったお菓子をいれるための大きな紙袋をもって町中を歩く。町中あちこちに本当にたくさんの地蔵があったのだが、震災で持ち主とともに仮設などへ引っ越した地蔵もかなり多いらしい。ずいぶんひっそりしていた。
地震の当日、あちこちの地蔵はいちはやく元どおりに設置されていた。子供を守る仏様(菩薩)である地蔵への信仰はかなり厚いものである。

ついでだが、盆踊はこの両日深夜まで繰り広げられる。昔は河内音頭でみんなが踊り、よばれてきた芸能人が出演、菅原文太が来たこともあったとか、あるいはのど自慢というような感じでほとんど夜明けまでだったらしい(ぼくは子供だったので、らしい、になる)。ここ10年ほどはもっぱらカラオケ大会で、それでも1時とか2時までやっていた。

さて当日、地下鉄の駅を出て歩き始めると早速ドンパン節が聞こえてきて、あせって走っていくが、リハだった。(ところで、このときはTシャツ・ジーパンだったが、後ででてきたときはステージ衣装の浴衣に着替えていた)

何時にはじまるかわからなくて困っていると、おっ、河村&太郎が自販機のジュースを買いに歩いているじゃないか。ちょっと悪いかとも思ったが、なんとなく河村さんはいつも見慣れているので(モノノケのライブではいつもあちこちをうろうろしてサウンドチェックかなにかしているから)河村さんに声をかける。「あのー、今日は何時からなんでしょうか・・・」向こうは一瞬びくっとしたが、こちらがあやしい奴ではないとわかり(?)七時からだと教えてくれる。すぐつけ加えて、「今日はおれら七時からと九時からの2ステージやねん」とうれしそうに語る河村さんであった。

第1部は『天然の美』で始まった。前奏が長めに演奏され、ゆっくりと客寄せをするチンドンの雰囲気である。『ハイカラソング』などいい曲が演奏されたのだが、見物人の盛り上がりはいまひとつだった。
中川が、「みんな、もっと踊ってね。遠巻きに見てる人も、前の方の若い連中なんか蹴ちらして。人に見られてるいう意識が強すぎるで。ビールも前でただでもらえるそうですから」などとMCすると、主催の人達から「おまえらもビールもっと飲んで盛り上げたらんかい」などと声がかかる。(盆踊ではよくビールやジュースが無料で配られる)
それでも『アリラン』が始まると突如どこからかおばさん数人が飛び出してきて踊り始めた。『トラジ』、ゲストが原語で歌う『密陽アリラン』とコリア民謡が演奏されるとやはり盛り上がる。
『安里屋ユンタ』で第1部は終了した。続く1時間「河内屋菊水」と書いたハッピを着て河内音頭が登場。

次第に人が増えてきた。金網で囲われた、ちょっと檻みたいな会場が満員になった。もちろん檻の外で見ている人もたくさんいた。
第2部(90は『アリラン』で始まった。第1部 とはうって変わって大変な盛り上がり。伊丹「そろそろ、いつものメンバーが集まってきましたね」。中川も「みんな来るの遅かったやん。もっと早よ来なあかんでー」と満足そうである。おばちゃん達みんな、風呂に入っていた、とか。
(私事ですが、この人達が『アリラン』を何度もリクエストするので、昨年長田で『アリラン』を六連発やらされた(伊丹)という話の主人公がぼくの知っている人達だったことが分かった)

ここから後はぼくの頭はもうろうとしてよく覚えていない。おばちゃん達に「せっかく(遠くから?)来てんから、もっと前で見ろ」とひっぱり出されたり(充分前で見てたんですけど・・・)、無料ビール何度もすすめられたりで、笑ったり踊ったり、ただただ楽しい時間が過ぎて行ったから。ソウルフラワーのライブをいつも一番前で見ている男の人など、このおばちゃん達に気に入られたらしくほとんど友達状態になっていた。
『満月の夕』『竹田の子守歌』と演奏は続き、『さよなら港』で帰ろうとしたら、アンコールがかかった。もちろん、『アリラン』である。ゲストによる『密陽アリラン』で終わる。中川「アリラン楽団でしたー」とすこし寂しそう(笑)。しかし前のほうで踊っていたおじさんが「きょうは久しぶりにほんまに気持ちよかった。もう1曲」、と言っていたんですよ、中川さん。

注(追記96.10.28): 魂花時報23によるとこの日のゲストは鄭喜美江(チョン・キミヘ)さん。「エレクトロ・アジール・バップ」に参加している人だと思う。
中山貴弘 (96.08.25, 最終修正 97.2.9)

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