970410 Nishinomiya 97.04.10 西宮市枝川町仮設ライブ

「とびっきりのをお願い、ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」  桜の花の満開の下、ヤツらが唄っている。ここは、西宮市枝川町仮設住宅。  満開といっても散り始めの桜の花びらが、風に流されて、ゆらゆらと舞っている。  桜雨も空けて、青空。胡散無産ライブ以来のソウル・フラワー・モノノケ・サミットのライブに心も舞う。  甲子園駅から、ぶうちさんと写真家の牧田さんとわいわいと歩いて仮設までの道行き。  バスを待っていた「ゆらぎ」さんまで、歩き隊の一員に引き込んでしまう。  桜堤が見え出す頃、テントと人の集まりが桜の向こうにあらわれる。  弾む気分を押さえながら、近づいていくと中川さん。挨拶を交え、旧交をあたためる。  ソウル・フラワーの面々とも挨拶し、ビデオの兄ちゃん・升田さんと言葉を交わし、  大熊さんと木暮美和さん、物品販売ボランティアの松岡姉妹たち懐かしい顔も見える。  胡散無産より2ヶ月しか経っていない。でも、2ヶ月も経っているんだ。  中川さんにお願いがあって、お話をする。「ちょっと待って!」  ワゴン車のドアを開けると、伊丹さんが座っておられる。「おひさしぶり!」  髪が赫い上にも赫い。桜の花のピンクとマッチして、晴れ晴れとしたお顔が輝く。  「私は、ここではアイドルなんよ」笑いながら、桜堤でお話を始める。  ライブ出演のお願い、ホームページの写真掲載のお願い、雑誌用インタビューのお願い  散々っぱらのお願いの連呼で、僕は「〜議員候補」にでもなったような気分。  でも、また素敵に楽しみたいから、またご一緒に輝きたいから、  僕たちは、精一杯でお願いする。心の底からお願いする。ありったけにお願いを重ねる  「すぐ連絡しますよ」お二人の笑顔が、今日もまぶしく輝く。  さぁ、ライブの前の腹ごしらえだ。屋台のカレーを掻き込み、わぁんわぁんと話す。  見知らぬおじさんからカレーをいただく。二杯のカレーとその上にうどん。  いっそうわぁんわぁんに磨きがかかり、お調子乗りにも拍車がかかる。  与太噺を繰り出し、笑い転げながら、時間をやりすごす僕たち。  「満開の桜の木の下には、死体が埋まっている」と口に出してみる。  「そんな台詞は似合わない」さっそく優しく突っ込まれた僕は、どぎまぎしながら、  「でも、桜の木という木の下に、死体が埋まっていたら、スリラー。   桜の木の下に死体を埋めたんなら、それはミステリーだ」なんて、お茶を濁す頃、    ヤツらの演奏が始まる。「とびっきりのを、お願い」心の中で叫んでみるんだ。  セットリストの鬼・ぶうち古谷作成するところの本日のメニュー。   1.美しき天然   2.ハイカラソング   3.革命歌〜農民歌〜解放歌   4.カチューシャの唄   5.聞け万国の労働者   6.アリラン   7.ダンチョネ節※   8.むらさき節※   9.弥三郎節※   10.もずが枯れ木で※   11.満月の夕   12.安里屋ゆんた   13.がんばろう   14.ゴンドラの唄   15.東京節   アンコール 復興節  ぶうちさん曰く。「四曲も新曲※があって、ごぉっつぅ美味しいライブでしたわ」  僕は思う。「久方ぶりのヤツらの唄が、すぅっと心に染み込んで、feel'n groovy!」  声を揃えて、「桜の花の満開の下、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットを聞く贅沢に、乾杯!」  とびっきりのをいただいた僕らはそれぞれの満足に、お酒も飲まないのに酔いしれた。  写真家の牧田さんは、演奏の間中走り回っては、写真を撮り続けておられる。  ヤツらの近景、遠景を撮り、じいちゃん・ばあちゃんを撮り、  踊る障害児たちの笑顔を撮り、二度とない今という一瞬を、焼き付けるのに忙しい。  演奏後、桜並木の下で、満足げなヤツらの揃い踏みを走りながら撮り続けもした。  ええのが撮れましたわ。してやったりの牧田さんの笑顔が溢れる。  満開の桜の木の下には、やっぱり死体が埋まっているのかも、しれない。と思う。  でもその死体は、もう遙か何千年もの昔から埋まっていて、  今日のこの日を待ちかねていたに、違いない。と思うんだ。  待ちかね待ちかね待ちかねて、今日のこの日に晴れ晴れと咲いている。きっとそうだ!  ヤツらの唄を聞くにつれ、僕はいつだって思うんだ。  今このときのヤツらの唄は、ずっと昔から唄い継がれては、人々の口の端にのぼり、  人々の口の端にのぼっては、人々を癒し、慰め、奮い立たせては、  何万人、何十万人、はては何百万人の人々へと伝わっていく、生きたメディアである。  だからこそ、唄に宿った何万人、何十万人、何百万人の思いが、今僕たちを魅了する  だからいつまでも、とびっきりのを、お願い。  とびっきり生きのいいのを、お願い。とびっきり素敵なのを、お願い。  これからも、とびっきりのを、お願い。  僕らはとびっきりのライブと、ホームページと雑誌でお返しするさ、きっとね! あがった/木村雅一(VYT00134) 97.4.11
NIFTY FWBEAT「墨絵の国」より転載

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