97.08.17 Mononoke in Shinjuku 97.08.17 新宿夏祭り(新宿中央公園)

会場へ向かう前に新宿西口の段ボールハウス群を見に行った。「あれは好きでやっているんだ。三日やったらやめられないらしい」などという陰の世論(つまりそれを公然という人はあまりいないが、実は支配的な意見といえるのではないか)はいったいどういう意図で形成されるのだろうか。地上に出るとすぐあの威圧的な都庁。これに対する批判がさほどでもないのはなぜか。などと考えつつ会場についた。

以前から気になっていた A-Musik が出演した。大熊亘が参加したバンドである。バックにもちらほら見知ったミュージシャンがいた。奥野から竹田さん(大正琴)のボーカルはうまいへたを超えてすごくいい、という話を聞いていたのだが、主にインストの演奏が続く。そしてソウルフラワーも5月のライブでとりあげた「ロンドンデリー」でやっとその歌を聞くことができた。

続いてシーサーズ。「人はなぜ働かなければいけなくなったか」というテーマで沖縄の説話をおりこみながらの「赤田首里殿地」はおっちゃん達に大ウケだった。いわく、むかしむかし島に兄妹が住んでいた。神様が毎日空から餅を降らせてくれた。明日のために食べ残しを蓄えることを考えはじめたときから神様は餅をくれなくなった。それ以来労働しなければならなくなった、というものである(説話ではこの兄妹が子供をもうける、というインセストタブーからはじまる創世記的な話へと続く)。

このあと毎週行われているらしい炊き出しがあって、ビールが配られ乾杯したあとモノノケが登場。ステージ近くと、ブルーシートをひいた客席では決して立ち上がって踊らないように、という主催者からのアナウンスがある。少なくともステージの近くで立ち上がったら後の人が全く見えないので、やむを得ない措置かと思うが、やはりちょっと物足りない。それでも「聞け万国の労働者」では後の客が黒旗をふり(黒はどういう意味なのか?)、前の方で座ってみていたぼくのそばでもおっちゃんが帽子を振りながら踊り始めた。

前日のアクシデントがあってはらはらしていたのだが、この日はスピーカーが不調だった。それでもバンドの方には特に影響ないらしく、演奏はほぼベストといえるものだった。とくに洋子のチンドンは鋭くきまり、光介さんのフィドルと大熊のクラリネットのからみあいがいつになく緊張感があった。

客席は前日に比べさらに若者ファンが多かったように思う。実は東京での方が関西より人気があるのではないかと思ったりもする。いい演奏があると「アンコール」という声がかかり(これはおっちゃんから)、中川「なんか4曲ほどやると終わらせようとするな、みんな」などといっていたが、たぶん「いまのはよかった」という意味なんでしょうね。そういえば他のモノノケのライブでもよく聞くことばだ。こんなところにも世代の違いがあらわれて面白い。

先述の段ボールハウスを撤去するために都は収容所をつくろうとしているのだという。土木・建設作業に必要な時だけ労働者を集めておいて、不況になったら、病気になったら、歳を取ったら見殺しにする、というのはあまりに都合がよすぎはしないか。それは企業の使い捨ての論理と同じものであろう。最初に述べた世論を形成している人達がそのことに気づき、いくらか新宿の野宿者に連帯感を持つことは不可能なのであろうか。

1997.8.19 中山貴弘

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