Mononoke at Kamagaski, Osaka 98.8.12 西成釜の夏祭り*

今年の夏はどないやねんやろ、暑いんかな、でもないんかな、ようわからんな。
センターの角を左に曲がってニシナリに入っていく。お盆、ということでもある し、やはり不況、ということでもあるのだろうセンターにはものすごい数のおっさんた ちがおった。しょっちゅうこの辺に出入りしているわけでもないのでよくわからない が、朝イチでもないのにこんな時分にこんなにたくさんの人がいるなんて、ちょっ と、っていうかかなりビックリした。それにしても覇気がない。頭数に見合う分だ けのエネルギーが、当然あるはずのものが、ない。視界に飛び込んでくる風景と肌で 感じるそれとのあまりの落差に蹴躓きそうになる。
引力に逆らって地べたに張り付いた重い腰を持ち上げるにはそれなりにエネルギー が必要なのだ。とかなんとか、わかったようなわからんようなことをつらつら考えな がら、とぼとぼとその景色を後にする。

ライトニン・ホプキンスやらサニー・ボーイ・ウイリアムスンUやらぴんから兄弟な んかとすれ違いながら三角公園目指して歩いていくとここにもあるはずのもんがな い。この通りの右手に見えてくるはずなのに一向にその気配がない、おかしい。そ のせいかやけに道のりが長く感じられる。そうこうしてるとそれはあった。
あまりの驚きにまたしても蹴躓きかける。思わずその場に立ち尽くし眼を点にして 見てしまった。そびえたつその異様な建造物はまさにタワー・オブ・デッドそのもの であった。あー茫然自失、南無阿弥陀仏、朝も早よからチンポ立つ。こりゃこりゃ。 おれは以前していた仕事の関係で大阪府下及び阪神間の警察署にはすべて足を運ん だことがあるがこんなしょうもないもんは見たことがない。キンタマの裏とかケツの 穴とか白昼堂々おっぴろげるか、普通。なんやねん、これ。ずんべらぼんやんけ。卑 しい警察の思想そのもの、丸出し、えげつな。
とにかく、観たことない人にはお薦めします「新・西成警察署庁舎」超最悪。

そんなこんなで気分を害させられようやく辿り着くとすでに結構人だかりができて いた。開演まではまだ少し時間があるようなので、沸沸とくすぶりつづけるハラワタ を静めるべく酒を買いに行く。あっちこっちうろうろしつつワン・カップを二つ買い 求め戻ってみるともう平安さんのステージが始まっていた。
舞台の上には平安さんともうひとり、三線のデュオだ。後ろのほうでちびちびやり つつ、ええなぁ、なんて思ってる間に終わる。あらら残念。
セッティングの合間にちょっと疲れたので地べたに腰を下ろしてボーっとしてると 傍におったおっさんに「汚れるからござのほうへ行き」と心配かけてもらう。「あり がとう。でも、かまへんねん」そう返事して引き続きちびちび。立小便とかアルコール とか体臭とか色んなもんが一緒くたになったややこしい匂いが鼻をくすぐりながら吹 き抜けていく。去年か一昨年読んだ『釜ヶ崎風土記』の事なんかを思い返しながらし ばし黙考。つかの間のブルーズ気分。日が落ちるのはまだ早い。

万雷の拍手に迎えられるわけでもなく、ずるずると、なんとなくソウル・フラワー ・モノノケ・サミット登場。ええ感じ。
黄金の(!)オープニング・ナンバー『美しき天然』で毎度お馴染みモード。ええね んな、これが。もうむちゃくちゃ好きやねんな、おれ。とりとめなかった会場の空気 もそれなりに集中してくる。この日のバンドの演奏のクオリティーは今まで見てきた 中でも屈指のものだったと思う。特に大熊、とにかくイケてた。クラリネットから溢 れ出てくるメロディーがティンカー・ベルみたいにしなやかにそこらじゅうを飛び 回って優雅にダンスしていた。それでいて、とびきり熱い。おめでとう! MVPです。
とくれば当然観衆もそれに煽られてグルーヴの渦に身をまかせ狂い咲き大盛り上が りの踊るドアホウ甲子園祭りーっといく筈なのだ、が、なかなかどうしてそうは問屋 が卸しません。これが難儀。もどかしい。
もちろん根っからのファンであるはずのないおっさんたち、である。当たり前とい えば当たり前である。それは百も承知だ。しかしそんな見ず知らずのアカの他人の 人々を巻き込み派手にやらかしてきたソウル・フラワーである、加えて最初に見た風景 があれだ。引力に逆らうエネルギーとしてこれ以上のものはないではないか。よっ しゃ、ええもん見せたる、おもろいでぇ、ってなるのがさぁ人情っていうか……お れってもしかしてアホなんやろか?
おそらく、この辺りの土地の引力はよそと比較していくぶんか強力なんだろう、た ぶん。

そんな独り善がりの悶悶とした気持ちを心の片隅に抱えたまま、であったがこの日 のライヴには満足させてもらった。よく見るとおっさんたちも皆楽しそうである。よ かったよかった、よな。ありがとう、ソウル・フラワー、ごちそうさまでした。

しょせんはよそ者であり、この街のことなどおよそ何も知らないに等しい身であ る。 いうまでもなくこの街の懐の深さや根の深さ、想いなんかについても語る言葉も持 ち合わせてはいない。それでもやっぱりあれだけは許せない、あのあつかましさだけ は見過ごごせない。家路へと帰る途中よせばいいのにまた立ち止まりしばらくそこでそ の醜悪極まりない建物を見つめていた。しまいにちょっと、クラクラした。

もうすぐ、地蔵盆やなぁ。

1998.8.14 シングルマン singleman@mub.biglobe.ne.jp

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