キム·トゥットル 김뜻돌 Meaningful Stoneの録音物を年代逆順に聴く(4) 2019-2017年


2019年、キム・トゥットルは「韓国インディの新人の登竜門、テレビ局EBSが主催する〈ハロールーキー〉で最終5組に選出された」。他には同じく女性SSWの ‘버둥 (Budung)’ などが入選している。

まずはその「未公開」映像から。(以下、タイトルの横のかっこ内はYouTubeの日付)

[EBS 스페이스 공감] 미공개 영상 ‘2019 하반기 헬로루키’ 김뜻돌 – 삐뽀삐뽀 2019.9.20

エフェクトつきのボーカルマイクを別に立てており、芸が細かい。バンドのメンバーはフルアルバムに参加している人たち。

以下、年代を遡って、まずは商用音源(ストリーミングにのっているもの)を聴いていく。日付はYouTubeのアップロード日。英語タイトルがないものは日本語タイトルを仮につけた(正しいかわからないので、あくまで参考に)。

2019年
사라져 (Fade Away)(Feat. 사뮈) 2019.5.7

男性シンガーをフィーチャーしたシングル。ミュージシャンとしてステージが上がったことを感じさせるし、演奏もインディーとはワンランク違う仕上がり。映像はどちらかというと、これよりON STAGE(2020年の発表)が面白くて、再生回数がとても多い。車椅子のダンサーが出てくる。

2018年
가위바위보「石・紙・はさみ」 2018.11.27

タイトルはじゃんけんのこと。韓国では「石・紙・はさみ」ならぬ「はさみ・岩・風呂敷」だそう。「デビュー作で人生の苦味を味わったキム·トゥットルは、そのYouTubeを通じてのみ音源を掲載して活動してきた」というYouTubeの説明(セルフレビューか)が笑える。ともあれ、失意の後ついに決心して発表された2作目の商用音源。演奏およびプロデュースは(シリカゲルの)キム·ミンス。きゃりーぱみゅぱみゅみたいな雰囲気の音。「ピポピポ」の歌詞が一部出てくる。

어쩌다 이 지경이 돼 버렸나
사람들은 이제 내 얘기에 귀를 막고

どうしてこんなことになってしまったのか
人々は私の話に耳を塞いで

밤산책(A Night Walk) 2018.7.14

ボサノバ調の曲。商用音源はbright#8というコンピに収録されている(2019年作)。上掲ののビデオについては折坂悠太のツイートがあった。「動画で枕抱えてるサンド氏は7日目に突入した禁煙に苦しんでいた。」

2017年
꿈속의 카메라「夢の中のカメラ」 2017.7.26

デビュー曲。出演は友達とのこと。パンダの着ぐるみと戯れるのがシュールで面白い。他に着ぐるみは「夢の中の電話」にウサギ、後出の「나를 가져」にゴリラが登場。チェロも多重録音のコーラスも含めベース以外は全て自らの演奏のようで、この人、基本的にアレンジは自分の頭の中に全部あるんだなと思う。

以下はこの期間にYouTubeで発表された曲。

2019年
이름이 없는 사람 (Nameless)
2020年編に掲載

2018年
나와 (With Me) 2018.9.28

シャッフルの3拍子で、コーラスもギター以外の楽器も入っていないが、コードの使い方が繊細。ビデオは海での水中撮影で、歌詞のふわふわした感じを表現している。アシッドフォーク風。

맨발「裸足」 2018.9.17

街を歩きながら自撮り。帰る場所がない感覚がよく出ている。クールなビブラフォンの音色のキーボードソロがいい。

나를 가져「私を連れて行って」 2018.6.7

販売音源は見当たらないけどMVは本格的な撮影(化粧品のCMと書いてある)。ゴリラの着ぐるみとスーパーで踊る動画。가위바위보と同じ路線のシンセポップ風音楽。

삐뽀삐뽀 (Beep-Boop, Beep-Boop) 2018.4.9
아참 (Ah,) 2018.2.8
2020年編に掲載

2017年
샤워를 해야해 2017.12.7
나비가루 (Butterfly dust) 2017.11.21
2020年編に掲載

slow velocity 2017.10.11

スタジオでエレキギターを弾き語りして自撮りしたビデオ。ジャズ的なニュアンスがある。

넌 나의 소중한「あなたは私の大切な」2017.9.30

シャッフルの3拍子。ピアニカの間奏が印象的な佳作。この人の歌詞にはよく雨が出てくるが、ここでも「雨が降る日に傘がなくて」と歌うくだりが感動的。

A Run away girl 2017.9.28

「弟にこの歌を聞かせたら、家出してからの心情かと言われた」と解説。リズムボックスやキーボード、タブラ風の音も出てきて、語りの部分もあり、完成したアレンジ。

デビュー曲の「夢の中のカメラ」はこの間に出している。なので、上述の期間のYouTube音源はデビュー後の非商用音源ということになる。そういう音楽の発表の仕方について、本人は「多少反抗的に見えるかもしれない」と言っている。

바람에게「風に」 2017.1.22

朴槿恵大統領を弾劾する「ろうそく集会」の映像。沈没したセウォル号のことを考えながら作った曲で、大学の先生に頼まれて授業で歌ったとのこと。ビデオや歌詞には、この頃の韓国社会の熱気を静かに見守る視点が感じられる。公開された初めての作品のようだが、既に作品として完成している。

他に、2017年より前のプライベートな録音物はインスタグラムにいくつかある(高1の時のバンド演奏まである)。最近ではデモ音源をSoundCloudで発表している。その他、ドラマのOSTとかfeaturingの参加で言及しなかった曲はいくつかあるが、おおよそ彼女の音源は全部網羅した。あらためて通して聴いてみて、音楽性が多彩なこと、アレンジが凝っていることが印象的だった。

(参考)
Namuwiki
https://namu.wiki/w/%EA%B9%80%EB%9C%BB%EB%8F%8C
韓国はウィキペディアよりこっちのが充実している場合がある。ミュージシャン情報はとても参考になる。

山本大地 – ONSTAGEだけじゃない、韓国インディを楽しめるYouTubeチャンネル
https://note.com/kid_dic/n/n7503266d6ffe
YouTube見てて「これなんだろう」と思う番組がたくさんあるので、こういう記事はとても参考になる。この人の書いた記事は、日本語ではなかなかない韓国インディー音楽情報が得られて貴重。

(2022.12.17記)