北欧のフォーク音楽を知るには


スウェーデンをはじめとする北欧のフォーク音楽に関する入門情報、例えば日本語か英語で書かれた概説書やフィドルの教本がなかなか見つからない。例えばPolska(ポルスカ)とはどういう音楽なのでしょうか。

スウェーデンといえば70年代のABBAがいて、それから80年代にイングヴェイ・マルムスティーンがいて、北欧メタルがあって、90年代にはカーディガンズをはじめとするバンドが渋谷系時代の日本のレコード店を席巻して、トーレ・ヨハンソンのスタジオで原田知世とかボニピンとかがレコーディングして、そういえばジャズも盛んらしい、ECMとか(これはドイツのレーベルだが北欧のミュージシャンの作品が多い)・・・みたいな知識はそれなりにあるわけですが、肝心のフォーク音楽が、ないんです。

本を検索してみると、出てくるのは『北欧音楽入門』というクラシックの作曲家を解説した本(それをためらいもなく「音楽」というところが腹たつ)。あとはたまにポップスとメタル。『スウェーデンを知るための60章』(明石書店)に音楽の項はあるけど、主にメタルについての記事。フォーク音楽、ないんです情報が。(参:この明石書店のシリーズで、「ノルウェー」ではポップスの他、民俗音楽にも若干触れられている)

惜しいことに、茂木健『フィドルの本』(音楽之友社)にも北欧フィドルの話は出てこない。アパラチアン・ダルシマーがドイツまたは北欧起源の可能性があるという説が紹介されているのみ。また奥和宏『アメリカン・ルーツ・ミュージック』(音楽之友社)にもそのディスクガイド版にも、オールドタイマーにしてスウェーデン音楽の紹介者でもあるTom Paley(後述)は出てこない。

ウェブ上には、Nordic Notes http://nordic-notes.music.coocan.jp や Harmony Fields https://www.harmony-fields.com のような、北欧音楽のCDやミュージシャンを取り扱うサイトがあって、日本語でここまでの情報があるだけありがたいと思うべきでしょうか。でもやっぱり体系的な概説書、せめてフィドル(でもニッケルハルパでも口琴でもいいから)教本がほしいわけです。その他、フィドルの先生やダンスのサークルなどの日本語情報がウェブ上にはありますが、体系的ではない。

海外サイトからは膨大な譜例が手に入りますが、例えばFolkWiki http://www.folkwiki.se や Spillefolk http://spillefolk.dk から必要な情報を探せといわれても厳しい。どの曲がポピュラーなんでしょう。初心者はまずどの曲から弾けばいいのか。どのCDから聴くと感じがわかるのでしょう。実際に北欧には、ものすごい数のフォーク(リバイバル)音楽のストックがある。どこから手をつければいいのか。

思えばアイリッシュなら、おおしまゆたかさんなど熱心な紹介者がいて、体系的と言ってよい本がいくつもあります。また楽器の教本なら、Matt CranitchのIrish Fiddle Book https://amzn.to/2Rhc8zl はダンス形式ごとの譜面と奏法の詳解、アイルランド音楽コラム、ディスコグラフィーがついている充実の内容です。日本語でも、フルート奏者のhataoさんによる『地球の音色 ティン・ホイッスル編』 https://amzn.to/2BELfLR に、アイリッシュ音楽の全体像が解説されています。

どうやら入門に必要な要件を整理すると、地域性と音楽形式の解説、譜例と独特の奏法の解説、ディスコグラフィーとなりそうです。ようやく探す対象が絞れたところで、いまのところスウェーデンのフィドルならこれ?と思うのがこの本です。


Ben Paley – Swedish Fiddle Music An Anthology
https://benpaley-fiddle.bandcamp.com/album/swedish-fiddle-music-an-anthology

楽譜集だけど、音楽形式の解説が1曲ごとにあり、ディスコグラフィーもついている。URLは、同名の楽譜集の(おそらく別売り)カセットテープに収録されていた音源を、無料公開したもの。この譜面、苦労して探した挙句、海外のサイトから古本を入手しました。けど、普通に売ってほしい。

著者のBen Paley http://www.benpaley.com/biography はNew Lost City RamblersのオリジナルメンバーTom Paleyのご子息で、出身地のイギリスに帰ってからスウェーデンのフィドル音楽に目覚め、上の本を書いたとのことです。恐らく外からみたスウェーデン音楽というか、英米やアイルランドのダンス音楽と全然違う、クラシカルに響いたり、なんだかよくわからない不思議な音階など、特徴的なものを中心に集めた曲集になっているのは、そのせいではないでしょうか。

しかし何か音楽を始める時に、ここまで情報を探し回らないといけない状態というのは、その音楽にとって、すごい損失だと思うんです。概略がわかる本があればいいんだけどなあ。ということで、冒頭に戻る。(2019.2.7)

<その他のスウェーディッシュフィドル本>
Tom Gilland – Favorite Swedish Fiddle Tunes. Mel Bay.
26曲入り。このサイトの紹介によると、Ben Paley本の次におすすめのよう。譜例が公開されていないので未入手。
https://www.people.iup.edu/rahkonen/fiddling/scandi.htm

こんな本もみつかっているが、売り切れとのことで未入手。
Rowan Piggott – Swedish Fiddle Tunes.
http://rowanpiggott.weebly.com/books.html
81曲入り。サイトに譜例あり。著者はデ・ダナンの創設メンバーCharlie Piggottのご子息だそう。

<番外編:アイルランド音楽の教本ならこの2冊>

The Irish Fiddle Book: The Art of Traditional Fiddle-Playing by Matt Cranitch


地球の音色 ティン・ホイッスル編(CD付)改訂版 hatao