歌うようにゆっくり弾け


クラン・コラ メルマガ(April 2018 Issue No.268)で、アイルランド人に音楽を習ったら「歌を歌うように弾け」と「ゆっくり弾け」が共通の教えだった(けど習った若者はピンとこなかった)という話が面白かった。

ぼく自身、ギターの先生に「歌うように」と何度も言われたし、「歌うように弾いている」と評されたことすらある。

思うにこれは「指先だけで弾くな」ってことなんですけど、まだ曖昧ですよね。弾くのは指先だろう。ひとつはっきりしてるのは、呼吸が大事だということ。本当に歌えなくてもいいんです。歌うのは無理なほど長いフレーズだって、楽器なら弾ける。これは大体こんな感じでいいのかな。他にも「気持ちを込めて」とかありそうだけど、さらに曖昧ですよね。

「ゆっくり弾け」は、実はよくわからないところもあります。ギターの先生の先生がテレビで「ある程度の速さで弾かないと曲の感じは分からない」みたいなこと言ってたし、ケヴィン・バークはDVDで「曲のスピードによってボウイングが変わる」と説明してたし。

しかし初心者的には、ゆっくり弾かないと本当は弾けてないのに飛ばしてしまってるとこがある。それは確か。理論的には、マッスルメモリーってのがあって、ゆっくりゆっくり弾くことで、その動きを筋肉が覚えこんでいて、ついには速く弾いた時にもゆっくり弾いてるのと同じ正確さで弾けるようになってる。らしいです。

これはこう言い換えてもいいと思う。あるスピードで弾けるようになるためには、そのスピードでも余裕があるくらいもっと速く弾ける必要がある。そうじゃないと音楽に聴こえない。だから相当弾けるようになるまでは、ゆっくりしか弾けないはずです。どうですか? (2018.6.20)

追記 2018.6.22
「ゆっくり」でひとつ思い出したが、太極拳は最強の武術だと聞いたことがある。なんでもあれは、格闘の動作を超スローにやっていて、遅くできればできるほど、速い動作もできるようになるんだとか。確かに、遅くかつなめらかに動作することには、かなりの集中力と鍛錬が必要かと思います。音楽にひきつけて言うと、速弾きができるのはそれはそれですごいんだけど、ゆっくりでありながらグルーブ感を持って弾くのは実はとても難しい。「ゆっくり弾け」にはこういう意味もありそうです。

The Irish Fiddle Book: The Art of Traditional Fiddle-Playing (Book & CD) Matt Cranitch
※これ、おすすめです。クラニッチはミュージシャンで、シュリーブ・ルークラ・スタイルのフィドルの研究で博士号とった人。ボウイングの指示があるところがいい。付録のデモ演奏CDも独立して聴きたいほどいいです。

Martin Hayes Dennis Cahill
※「ゆっくり弾け」といえば、この人でしょう。最初の曲から、なんだか重力が違う世界に来たような気になってしまいます。いうまでもなく、マーティン・ヘイズはすごく速く弾くこともできます。